真夏の日曜日の午前中、兵庫県伊丹市にあるホームセンター。被告の女(30)は、屋外駐車場に止めた車の後部座席で、買ったばかりの商品に火をつけた。ひざの上に2歳の長男を座らせながら――。
無理心中を図ったとして、殺人未遂罪に問われた被告の裁判員裁判が6月、神戸地裁で始まった。両親のいない家庭で育ち、自分は家族を大切にしたいと誓った被告を、事件へ駆り立てたものは何だったのか。
「この人と添い遂げよう」
起訴状によると、被告は2024年7月、車内で炭に火をつけ、長男を殺害しようとしたとされる。
長男とともに車外に出て、2人は一命を取り留めた。
起訴内容を認めた被告は法廷で、家族へのあこがれを語った。
「ずっと夫の名字で生きていけるんや、といううれしさがあった。この人と添い遂げようって」
被告人質問や公判資料によると、夫とはマッチングアプリで18年に出会い、2年間交際して結婚した。
不妊治療をし、1年後に授かった待望の子どもが長男だった。
被告は、両親が別居したため3歳ごろから母方の祖父母の家に移り住んだ。
約1年後には母が失踪。高校のころ、両親の正式な離婚で名字が変わった。「家族を大切にしようと思った。私には父も母もいなかった。何があってもそうはなりたくなかった」
ずれ始めた歯車
妊娠を機に仕事をやめ、家事や育児を主に被告が担った。
だが長男が産まれてから、夫の仕事や育児をめぐって口げんかになることが多くなった。
2歳になる前ごろからは、夫の髪の毛を引っ張ったり、おなかを殴ったりするようになった。
そんな自分が嫌で、心療内科…